はじめに
RAKUSPAという漫画喫茶のような施設で「全国の書店員が“一番売りたい本”を選ぶ「2020年本屋大賞」で2位を獲得」という帯があった『ライオンのおやつ』(小川糸、ポプラ社)という書籍を手に取りました。
久々の小説でしたが、読んでいてとても心が洗われたので良かった点や思ったことを文章を抜粋ながらつづってみます。
ちなみにあらすじは以下。
男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫は病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。
最後の日々を過ごす場所として、瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があるのだが、雫は選べずにいた。
文章を抜粋している箇所があるので、まっさらに見たい方は先に読んでくることをおススメします。
まるっとした感想ですが、「読んで良かった」です。
泣けると話題の本を読んだけど泣けた
— 思垢くん@はてなブロガー (@everyday0utput) December 4, 2020
書き出しから惹かれる
船の窓から空を見上げると、飛行機が、青空に一本、真っ白い線を引いている。
私はもう、あんな風に空を飛んで、どこかへ旅することはできないんだなぁ。
失って分かる幸せについて主人公(雫)が思いを巡らす冒頭の描写で、あらすじを知らずに読んでいた私は一気に真剣になります。
「幸せというのは自分が幸せであると気づくこともなく...」という表現も本当にその通りだな~と思いました。
おやつを食べないまま亡くなる人もいるじゃんというツッコミ
入居者のリクエストに沿って週に1回おやつが提供されるという話の中で、提供されるおやつはどうやって決めるんですか?と施設の管理人(マドンナ)に聞きますが、「くじ引きで決めます」との回答。
それを受けて
その方法だとリクエストしても最後まで自分のおやつが選ばれない人もいるということだ。そのことを考えると、しんみりしてしまった。
でも、それが人生なのかもしれない。
と主人公が内心思うシーンにて、読者と同じ目線の考えで一気に感情移入してしまいました。
ここからのシーンにも通じますが、セクハラに嫌がったり若い男性に好意を寄せたりする描写も本当に等身大という感じ。綺麗ごとの嘘っぽさがなくて良かったです。
大金の服を買うシーン
いつもは、小物だけを見てそそくさと退散するのに、その時は、値段もチェックせずに服を選んだ。けれど、試着をするたび、心が揺れた。どうせ(すぐに亡くなって)燃やしてしまうのに、そんな大金を払うならどこかに寄付して社会貢献でもした方がいいんじゃないの、と。
この、服を買うシーン好きなんですよね。
結局は、試着室の外で別の人が別の人に対して怒鳴った「違うでしょ!」という声が自分に刺さり、背中を押されて高額の一張羅を買います。
そして後から「自分は未婚で子供もいない」ので「自分でやらなきゃ誰もしてくれない」と買ってよかったと振り返るシーンも良かった。
私が死んだら
島でできた友人(タヒチくん)に明るい声で
私が死んだらさ、ここに来て、空に向かって手を振ってもらいたい
とお願いし
お楽しみがあったら、そういう不安が少しは解消されるんじゃないか、って考えた
と言う主人公に「いいよ、約束する」と答える。
後述しますが、この作品ができた背景に筆者の母親が「死ぬのが怖い」と怯えていた体験があったことを明かしている点がこのシーンにリンクします。
治らないことを告げられた日
癌の治療に失敗したことを告げられた日に、父親がくれたぬいるぐみに当たってしまった後に親が今まで注いでくれた愛情を思い、
そんなこと親だから当たり前だと思っていたが、当たり前なんかじゃないのだ。(中略)
そのことを思ったら、涙が止まらなくなった。
と「一晩かけて傷つけたぬいぐるみを修繕した」というシーンはグッときました。
本作品を読んでいると思いますが、結局は家族のような強い絆がある人がそばにいるかどうかが最後は一番大事なんだろうな~と。
少女の死
ホスピスには色んな同じ境遇の人が来ているので当然顔見知りが先に亡くなることもあります。
そして、自分より一回り以上小さな少女(百ちゃん)が人生を全うしている様を見て
百ちゃんと会う前までの私は、まだ人生が続いているのに死ぬことばかり考えていた。それが、死を受け入れることだと思っていた。
でも、百ちゃんが教えてくれたのだ。死を受け入れるということは、生きたい、もっともっと長生きしたいという気持ちも正直に認めることなんだって。
と主人公が死についての捉え方を変えるシーンは印象的でした。この日に、ついに主人公は思い出のおやつのリクエストをまとめます。
自分はなんて幸せなんだろう
私は、以前よりもだいぶ不自由になった体で、時々笑い、時々泣いた。
まだ、感動する心を失っていないことに感謝だ。
だけどその涙はもう、百パーセント、喜びの涙だった。自分はなんて幸せなんだろう、そう感じる度に、私の目からは涙があふれた。
物語終盤の一節ですが、美しい文章。これは実写化されようがマンガ化されようが、活字の中で味わうのがいいと思ってしまいます。
終わりに
「もう一度首にしっかりと巻き付けたマフラーからは、確かに雫さんの匂いがした。」も余韻を残す印象深い最後の一節。いやー、痺れました。
この物語はフィクションですが、筆者の実体験に基づいているそうです。
母に癌が見つかったことで、わたしは数年ぶりに母と電話で話しました。電話口で、「死ぬのが怖い」と怯える母に、わたしはこう言い放ちました。「誰でも死ぬんだよ」けれど、世の中には、母のように、死を得体の知れない恐怖と感じている人の方が、圧倒的に多いのかもしれません。母の死には間に合いませんでしたが、読んだ人が、少しでも死ぬのが怖くなくなるような物語を書きたい、と思い『ライオンのおやつ』を執筆しました。 おなかにも心にもとびきり優しい、お粥みたいな物語になっていたら嬉しいです。
物語にも出てくる「お粥」を引き合いにだしていますが、本当に心があったまる作品。
「一リットルの涙」にも似た、”限りある時間の中で自分にとって本当に大事なものって何だろう?“と考える有意義な体験ができました。